研究目的・研究方法など
概要
本研究は「研究計画最終年度前年度応募を行う場合」に該当します。前申請継続課題と本研究は課題と目的の多くを共有し、さらに研究分担者・海外の研究協力者を増員し、研究領域を拡張します。継続課題では、近世日本の数理科学(和算・測量術・天文暦学)の歴史研究を分野横断的かつ総合的に研究し、文献史料の研究支援システムを構築してきました。
研究の進展により数理科学3分野の歴史を統合的に叙述するモデルを新たに得たことから、研究領域を東アジア(日本・中国・朝鮮・琉球)と欧米に拡張し、継続課題で得た新知見を加味してこれら地域における数理科学の比較史・知識交流史を実践します。本研究の目標は、近世日本の数理科学史に関する新知見を導入することで得られる、前近代(16世紀後半〜19世紀末)東アジアの数理科学を巡る新たな歴史叙述モデルの構築です。
研究の学術的背景と核心をなす学術的「問い」
本研究の問題意識は、近世日本の数理科学史を分野と地域を横断して総合的に分析することに向けられます。研究方針は個別史料の理解を前提とし、その史料の数理的知識の文化史上の位置づけ、受容の実態分析、社会史的背景の分析をも包含します。
継続課題において得られた近世日本の数理科学史の叙述モデルによれば、17世紀の後半、和算・測量術(当時の用語で「町見術」)・天文暦学の3分野ではそれぞれに画期となる転換点が同時期に創出されました。算が普及した後、朝鮮経由で伝来した中国起源の天元術が独自に応用された関孝和の数学が登場し(1670年代)、町見術では元禄の改暦が行われ(1680年代)、17世紀に幕府の命で地図作成が成されました。さらに19世紀までに分野間の知識の相互浸透と人材の交流が進み、近世日本における「数理科学」としての融合(例えば伊能忠敬の登場)が進んだことが明らかになりました。
3つのアプローチ
本研究は大きく3つのアプローチを設定して研究活動を進めます。
アプローチ(I):国内史料研究
日本国内における数理科学関係史料に関する従来型の研究。史料の読解・解釈、著者・作成母体に関する研究、史料の伝来調査、関連史料の探索調査など。研究期間中の数値目標として、半年に2〜3ヵ所の国内史料所蔵機関での現地調査を実施します。
アプローチ(II):比較史・知識交流史の共同研究
近世日本の数理科学の情報が継続課題によって刷新されたことから、これに関わる幾何なテーマを選び共同研究を実施します。初期テーマを設定した後、以下のサイクルに基づき、研究テーマを順次深化させ、細部にわたる論証を展開します。
- 分担者・協力者の少人数でグループを作り、特定のテーマに関する調査や討論を行う
- 複数のテーマ研究を同時並行的に進める
- 各グループが用いた研究資源をデータベース化し、キーワード関係性をナレッジ・マップで可視化する
- グループ外のメンバーはデータベースのシステムによって情報を共有、参照する
- 発表等の成果から、さらに立ち上げて研究を開始する
アプローチ(III):デジタル人文学
研究分担者の橋本が担当し、アプローチ(I)(II)の双方を技術的に支援します。研究資源データベースの構築、ナレッジ・マップの装実を具体化するとともに、既に継続課題において着手した研究でさらに展開します。生成AIやクラウドソーシングを活用した史料の市民参加型翻刻プラットフォーム「みんなで翻刻」との連携も推進します。
研究の独自性と創造性
- 近世日本の新知見の活用:近世日本の数理科学史に関する多くの新知見を比較史・知識交流史の基礎情報(インプット)として利用すること
- 東アジア史の刷新:このインプットによって前近代東アジアの数理科学史の根本的な刷新(アウトプット)が可能となること
- 琉球王国の重視:東アジアの領域において従来は看過されてきた琉球王国を1つの極として設定すること
- 一次史料重視:数理科学の一次史料(古典籍・古文書・古道具類)の情報に基づいて歴史叙述を志向すること(可能な限り一次史料を情報源とすること)
- デジタル人文学的手法:生成AIやクラウドソーシングといった先進技術を駆使し、東アジアの数理科学史研究者による文献研究の支援を実現すること